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とてもじゃないが表に置けない痛さ炸裂の雑文をどうにか供養するために設けた墓場のような場所。
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あまつさえ、美しい、と。

襲撃に焼けた村の残骸に、哀れな死体が転がる様を見てもなお。

無力な自分が手を引いて唯一難を逃れた妹が、嗚咽を漏らしている真横でさえ。

宵闇に起きた惨劇の全てを見せつけてくる朝の陽に、なんと非道な、なんて無体な、と罵ることもなく。

美しい、と思ってしまった。

この世界を、変わらず美しい、と思ってしまった。

彼方燃え残った野で咲いては揺れる花を。
妹のこぼす涙にキラキラ弾ける陽光を。
立ち上る煙が吸い込まれていく夜明けの空を。

殺戮と破壊が行われ、親しかった者らを死なせた世界を前にしても、「この世界は美しい」と。

心底恨むことが出来なかった自分は、きっと歪で、きっと醜い。









村が焼かれた。
皆が死んだ、殺された。
罪も責もないはずなのに。
国取り遊戯の盤上にあるというだけで、武力はこうも弱き命を踏みにじる。

そう茫然としながらも、しばし憤慨して狂って許されるような現実でも。
これは世界の理で、乱世の定めなのだなと、淡々と受け入れた自分のなんと薄情な。
幼いこの身で自制のきく程度の悲しみしか沸かないのだろうかと自問できるほど、不思議と頭は冷えていた。
足元で肩を震わせる妹の方がよほどこの世界に相応しく、そしてやはり美しく見えた。
「ええい、泣くな!!」
今しがた何もかも亡くした幼い女子に、そう叱咤する者がどこにいる?
「弱いと皆みたいに死んじゃうんだから!!泣いちゃダメよ!!」
滲む涙を押し留め、そうまでして生きたい生きねばと声高に叫ぶこの心をなんとする?
そう、自分は、美しくない。
この冷静さは、貪欲さは、美しくない。
自分たちは年端もいかぬただの村娘、震えて涙する妹が正しいというのは分かるのに。
自分が五体満足で今ここにあるのもまた、この非情に冷えた頭に負うところが大きいのだから、どうとすることも出来ず。
世界は弱きものが美しく可憐に泣くことを求めているのに。
世界は私の流す涙を求めているのに。
世界は弱き私が蹂躙されることを欲しているのに。
それが、私の愛するこの世界の望みだから
「泣いたら、強くなれないでしょう!」
私はそれに抗った。
死して美しい世界の一部になるよりも、それを傍らで見たかったから、私はどうしたって強さを欲したのだ。

殺戮が始まる前、無意識に異常を察知し駆け出した、獣本来の狡猾さ。
この妹とて、手の届く範囲にあったから連れたものの、今一歩遠ければ抱き起こしなどしなかったであろう自分の、確実に存在する薄情な思考。
頭を占めるのは「死にたくない」「生き延びる」それだけなのに、的確な判断で声を殺して身を潜められるこの本能はどうだ。
切り伏せられた死体の山にこれ幸いと紛れ込む生への執着はどうだ。
あんな惨状の直後に、花を見て常と変わらず綺麗などと思えるこの神経はどうだ。
庇護を突き返し最後残った血縁も捨て、生き延びるための「強さ」を求めて忍を目指す貪欲さはどうだ。
弱さを踏みにじる世界を、反抗しながらも愛する自分のなんと歪なこと。

強くなければ生きられぬこんな世界を美しいと思う自分は、美しくない。



「そう、だから、お世辞にも綺麗とはいえないでしょ。」
本当なら、世界も。私も。
伊賀を去る小さな背中が見えなくなって暫く、毒づいた。

あんたには、本当にこの世界が美しく見えていたの?

綺麗を綺麗と口に出して言えなくなったのは、何時からだろうか。同じ忍でありながら呑気にそれを語る口を憎らしく思いつねりあげては、そこにかつての自分の影を見ていた。

「世界は美しい」と、そう述べる自分もまた美しいと思いたいだけだろう、と。

弱いまま生きられぬ世界にそうやって媚びを売って、悲嘆や残虐を解らぬ愚かなふりをして。
そんな八つ当たりや言い掛かりに等しい暴言を吐いては、己が抱える矛盾に少しだけ溜飲を下げて。
「でもやっぱり、美しくはなかったのね。」
世界を美しいと言って憚らなかったその少女が捨てて行った忍の世界。
そこに身を置き続ける自分は、やはりそうなのだと思うと。
「やはり寂しいのか。」
「は?冗談。」
「俺は寂しい。あいつがいないと、ひよこ達に会いに来にくくなる。」
「忍らしくないこと平気で言うんじゃないわよ次期甲賀当主。」
どいつもこいつも呑気なんだから、と嘆息すれば、愛するものを追いかけて何が悪いと、言外に今見送った相手も擁護するかのような物言い。
「別に寂しいとか怒ってるとかじゃないわ。ただ綺麗なものが好きだと言うあいつが捨てた忍の世界は、そこまで美しくはないんでしょうよ、と思っただけ。」
それは諦めにも似た感情。冷えたままの自分の頭は、胸の内になんの変化をも許さないから、声音も自ずと温度を無くしたようになる。
けれど同じくらい感情を感じさせない声で、それは違う、と少年は言った。
「お前は間違ってなどいない。世界は、美しい。」
「んなわけないでしょ、こんな少し裏を返せば血みどろの世界のどこに。」
まともな誰が美を感じるかと。

吐き捨てる。

それでも、ここにいたいと願ったのは、女の柔で猛る武を御す「弱い強さ」では、あの惨劇は生き残れなかったと感じるから。
あの惨状を経験した自分が、確たる力を欲してしまう事は当たり前のようで、だからそうさせる世界も従う自分も美しくなどはないのだと。

「いや、美しい。美という字は、大きな羊。神への供物。」
贄に捧げる獣をもって、「美」という文字を成すならば、それが流血と残虐を孕もうと、それは真実「美」なのだ。
言ってしまえば戦乱の世の殺戮は、太平の世への生け贄と同じ。
珍しく饒舌に語る少年の声は、あくまで淡々としていて。
「その日その日を慎ましく暮らしている民草にとっては、戦乱などはた迷惑な話だがな。」
と、自分の過去を知ってか知らずか少し音を落として。

では人が血濡れた大なる羊の姿を、美とするのはどうしてだろう。神に捧げて請うるのは、自らの安寧と平穏、勝利と繁栄。それが図らずとも願えども、他の破滅や滅亡と隣り合わせであるということは、それこそ世の理。
人が行う殺戮の向こうには、純粋で血腥くて御しがたい自己への愛と命の輝きがある。生への執着が、煌めいている。

それは「未来永劫この生に興じたい」という、生きとし生けるもの全ての、世界への恋情があるから。

「美しさとは、慈愛や憐憫や哀悼のような清廉なものにばかり宿るんじゃない。喪失、狡猾、傲慢、執着、全て人が生きるため捧げる贄、美だ。」

だから、人の営み全てが美しく見えたとて、それは真実のはずなのだ、と。

殺戮からも美しさを拾い上げては世界に恋慕し続けるお前の瞳を見せてみろ、ほら、こんなにも、と男は笑んだ。

「世界を美しいと愛さざるを得ないお前を。その愛という名の執着を。俺はたとえ血腥さを孕もうと、美しいと思う。」

世界はやたらと私に泣けとせがむから、天の邪鬼にくれてやるものかとおさえ続けた涙が、滲むのが分かる。
けれど、それに気づいた其の親指はそれが雫となる前につ、と拭って、ペロリと己のものにしてしまった。

「涙も世界に捧げる贄だと言うなら、お前は代償として何を望んだ?」
「何も。私はただ美しい世界を見ていたかっただけだわ。」
言ってしまえば、涙など流さずとも美しい、そんな世界だけを愛する自分が欲しかったと。
「では、代わりに見せてやる――」

数歩さがって、佇む少女を蒼天の下に配置して、景色の一部に取り込んで。

「どんなに厳しく惨くとも、お前を今日まで生かし、今ここに置いてくれた世界は美しいと、俺は感じている。」

硬く短い黒髪が風になびく。

忍が命を全うするのは当たり前。物事に勝ち負けも美醜も善悪も、生死すらも大した意味をもたず精彩を欠いた自分の世界に、現れたのは苛烈なまでに生きたいと願うこの少女。
「世界は美しい」と宣うその姿が目の前に置かれて初めて、確かに世界は瞠目するほど美しく、自分もまた、そんな世界を愛さずにはおれなくなったと。
俺の世界を美しいと愛するならば、お前も真実可愛(あいすべき)存在であるのだと。

そんな睦言めいたことを、黒い双眸はゆるく弧を描いて吐き出すから。


血濡れた道を自ら選び、強く強く生きたいと願いながら、明日にでも乱世に身を捧げねばならない恐怖。
命が惜しいと決して言ってはならぬのに、それだけのためにここまで生きてきた矛盾。
かつて自分が奪われたのと同じ喪失を、自分も誰かに強いているという皮肉。
それらを表には出さず、声なく痛める胸の内すら見抜いて、お前もまた美しく可愛い世界の一部と言われてしまえば。

(お前が世界を愛するなら、俺も今目の前の世界に執着しよう。)
(美しいお前が俺の視界で佇むこの世界に。)

言葉にしない自分への肯定と賛辞と。

「だから、この世界でこれからも生きてくれ。」

常ならば無口で掴めぬ男が蒼天の下で優しく佇み、さあ帰るぞと招く世界を。

残虐を前にしても憎めなかった瞳の主が、これを愛さずいられようか。

この虫酸がはしる美しさの世界を。

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「あの、私思うんですけど」
おつかいに来た甲賀の二人にお茶を出しながら、伊賀ずきんが遠慮がちに言う。
「佐助さんの性格上、というか作品の性質上、もうヒーロー的展開は諦めてあげてもいいんじゃないでしょうか」
正確にいうならば、本来茶を出すはずだった人物の片方がぴわぴわと音のする廊下にへばりついている異様な光景を横目にしながら、というのが的確な情景描写である。

「なんというか、これはこれですごく幸せそうでいいじゃないですか」
暖かい目でその様子を見守りながら、来客用に煎れた茶を自分で飲み、目の前の人物に茶菓子をすすめる。
「だからぼたんさん、お願いですから」
「・・・・・・・・・・・・」
「その火薬百連はしまってください。」
「・・・・・・・・・・・・分かってるわよ」
この前張り替えたばかりの廊下をまた爆破されてはかなわない、と伊賀ずきんは内心滝の汗を流しながら、ぼたんをなだめる。
「小さい可愛いもの好きなんてある意味キャラが立ってるとも言えますし、無理に正統派のヒーローに持っていこうとしなくてもいいじゃないですか。ぼたんさんの気持ちも分からないではないですが」
「・・・・・・・・・表紙買いした本がいまいちってことあるでしょ?」
「はい?」
「ぱっと見いい感じだったから買ってみて、最初のうちは面白いことを期待して読むんだけど、しばらくして段々と『もしかしてハズレだった?』って感じ始める。
でも自分の買い物が失敗だったって認めたくはないっていうか・・・・・・まだ自分の中ではっきり『つまらない本買ってしまった!』と決定されてないもやもやしてる状態」
「はあ」
「つまり、まだ私の中の佐助の評価はそんな感じなの!あんな状態でも、もしかしたらまだいけるかもしれない!ていうかもう駄目なのはなんとなく分かってるけど!まだ決定打が無い!みたいな!!!」

そんな比喩をされてる時点でもう手遅れな気がしますが・・・と思ったけれど、下手なことを言うと、また火薬百連が取り出されるか自分のほっぺたが危機にさらされるので黙っておくことにした伊賀ずきんでした。

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初めて自分が欲しいと思ったもの。
初めて自分で手離したもの。

たまに会えればいいと思っていた。
仲間としてそばにいればと思っていた。
彼女自身に汚れて欲しいわけじゃない。
たとえ血を流し、略奪をするのがこの身でも
帰った場所に、あの笑顔があれば。
ただ隣にいさえすれば。

それでいいと思っていた。

――なのに。

手を離そう。誰より早く。
一緒に堕ちて欲しいだなんて
思ってしまう、その前に。

あの日あの時、握られた手を握り返していたら
彼女は今も俺の側にいたかもしれない。

名前を呼ばれ、呼んでと言われ、結局俺は何も言わなかった。
手を握られ、手を離され、結局俺は何もしなかった。

悪人だろうが盗人だろうが、「友達」と笑顔を向けてくれる心につけこんで、
さらってしまうことは容易かっただろうけれど。

そんなあいつだからこそ、俺は。


長く寄り添い共に歩むにつれて生まれてしまう親愛の類は
いつかきっと、奇麗なあいつを俺のいる暗闇へ駆り立ててしまうだろうから。

俺と一緒にいるという、ただそれだけの
そんなくだらない理由で、一緒に堕ちてくれることは分かっているから。

手を離した。誰より早く。
一緒に堕ちてあげるだなんて
言われてしまう、その前に。


ただ黙って見送った背中。

何も言えなかったのか、言わなかったのか。
何もできなかったのか、しなかったのか。

どちらでもいい、答えはいつも
空っぽのこの手のひらの中に行きつく。

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昔ラクガキしたネタの元の文。



寒い寒い寒い…!!!!
木枯らし吹き抜ける寒空の下、業界でも有名な露出度ナンバーワンのザ・くのいちこと甲賀のぼたんは震えていた。
なんせへそ出し、生足、ノースリーブで布の面積より確実に肌の見える部分が多いのだ。
無理もない。
しかし、プライドとかキャラデザとかアイデンティティとか色々事情もあるので嫌とはいえない。
「心頭滅却すれば火もまた涼し!逆!木枯らしも温し!」
だが、精神論を持ち出しても物理的に温度が下がるのはどうしようもない。
本気で肩が冷えて仕方無いのである。
自分で自分を抱く恰好で触ってみたら、外気にさらされた二の腕は氷のように冷えていた。
「あーもう…!!佐助!」
「なんだ」
呼ぶのは「いたんですか」とよくツッコまれる甲賀の佐助。
今回も例にもれず画面の隅っこにいたようだ。
「ちょっとじっとしてて!」
と言うが早いか、ぼたんは中腰になって佐助によりかかる。
「・・・おい」
「で、ここ掴んで」
ちょいちょいと自分の手首を示しながらぼたんは頭と背中を佐助の胸に預ける。
どうやら自分の腕の外側をすっぽりと佐助の腕で包もうという魂胆らしい。
「……」
「はぁー、まあこれで少しはマシだわー下半身は相変わらず寒いけど…」
温い温いとご満悦なぼたんよそに、大人しく言うことを聞く佐助は違う意味で寒かった。
ぼたんの鋭利な髪飾りがちょうどのど元に突きつけられている状態で、
下手に動くと頸動脈あたりをかっ切られそうだ。

「……心頭滅却すれば手裏剣も、か」
「?」
それでも「離れろ」と言わないのは、まあ互いの利害が一致したと言うことで。

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「服部殿」
「・・・これはこれは。甲賀忍の里長直々の来訪とは珍しい」
「先日『伊賀ずきん』が出ていったとか」
「お聞きになられたか」
「ええ、うちの子たちから。ずいぶん厳しくされたようですな」
「・・・最初からこうなるとわかっておった。あやつは忍には向かぬ」
「あなたにはやはり敵いませんな」
「ほう?」
「私もできることなら、あの子たちを日の光の下で育ててやりたかった」
「・・・植物全てが陽光を欲するとは限らないであろう」
「わかっています。これがあの子たちの望みなのだと」

――俺は名前に添って、出雲守様を支えられるようになります。
――お師匠様、私は誰より強くなりたいんです。だからここにいさせて下さい。

「私にできることは、せめて心を失くさぬようにと務めてやることだけ」
「甲賀と伊賀の違いはそこにある。そしてそれでよい」

――心を持ち、腕の中に守るか。
――心を捨て、穢れを避けるか。

里長が選んだ術は異なれど
根を成す想いに差異はない

「あの子たちがいつかたどり着く『答え』が、あの子たちにとっての最善であればよいのですが。
 願わくば・・・彼女と同じように」

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