黒い頭巾の伊賀ずきん。
本日は近くの滝に打たれ、精神を鍛える修業。
気合い充分、朝一番に出掛けて行ったはいいのだが・・・
「遅い・・・!何をしとるんだあの駄目乙女が・・・」
空はすっかり茜色。
時刻は酉の刻を回っているが、一向に帰ってくる気配はない。
「まったく・・・何処で油を売ってるのでしょうか」
「仕方ない、零蔵。少し見て参れ」
「わかりました」
修業に使ったはずの滝壺には姿はなく。
里から通ったはずの道にも何の痕跡もない。
「どこかで脇道に逸れたな・・・」
滝行を終えて、帰る途中に花畑でも見つけて別の道に逸れたか?
それかまたいざこざに巻き込まれたか・・・少女の行動を予想してみる。
まず浮かぶのは、細い眼をした盗賊が絡んだ諸々。
次に、何かしら顔を出す甲賀忍の二人組。
ついでに、なんか小さい南蛮忍者と歩き巫女。
または、未知の生命体と遭遇。
もしや、狐狸妖怪に化かされた、とか。
まさか、人さらいに拉致監禁に身代金要求?
それはあるまい。根拠はないが。
泡のように際限なく浮かんでは消える可能性。
(…何かしらトラブルを呼ぶ体質だからな)
そこまでで思考を停止し
(どれでもいいか)
とひとつため息。
かくして捜索は始まり――
「・・・温い」
数分で終了した。
ころんと寝ころぶ一匹の子猫。
ふとそんな単語が浮かんだ。
何をしているかと思えば、花畑ですやすや居眠りか。
――狼がきたらどうする気だ。
「おいこら、ばかずきん」
「あてっ・・・は、零蔵様!?」
「修業はどうした」
「あ、あの、つい気持ちよくてうとうとと・・・」
「帰ったら父上のお叱りを受けるんだな」
「ええええ!?」
「大層ご立腹だったぞ」
「・・・・・・・・う」
「せいぜい反省するんだな」
「うわああああどうしよう…ってなんでそんなに嬉しそうなんですか!!?」
慌てる様子がなんだかおかしい。
先ほどまで眉根を寄せていた自分も同じくらい滑稽だが。
「・・・置いてくぞ」
待ってくださいっ!と追い掛けてくる小さな人影と、夕暮れ色に染まった花畑。
「牙を生やした獣もいるのに、のんきなもんだ」
「え、また熊でも出たんですか?」
「…また?」
それはよくわからないが、何故かひどく安堵している自分がいた。