「お前いつか坊主はイヤだって言ってたけど、
南蛮人だって僧侶は坊主じゃないか。
それに目はともかく髪なんて剃っちまえば
鬼とか言われることも減るんじゃないか?」
「・・・それは」
そう、髪は染めれば黒くなる。剃ればわからない。
わかっているが、それはできなかった。
まるで本来の自分が『間違って』いるようで。
他人の否定と、自分の否定。
どちらがいいかを選んだら、
自分は相手を恨めばいい。
「・・・ミス・ゴールドは鬼と呼びはしたけれど、少なくとも否定しなかった」
あのとき「キレイ」と言われたこと。
ビードロより金米糖より、月あかりに透かした自分の髪が。
珍しいからとか油断させるためとか、理由はあったかもしれない。
でも、あのふと漏らしたような言葉に嘘はないと信じたい。
「社交辞令でもお世辞でも・・・それを聞いて、
言ってくれて嬉しかったことに変わりはないんです」
――ありがとう。
少し素直になった今なら、面と向かってそんなことも言えただろう。
日本語も随分上手くなったことだし。
「ま、今更言っても遅いけどなー」
「・・・わかってますよ。それを言ったらあなたこそ」
「いいんだよ。あいつは『友達』なんだから」
「私だって『友達』として助けてもらいましたよ。あなたから」
「・・・やっぱり剃らせてもらおうかその金髪」
「冒頭の発言は流れをそこに持ってくるためだったんですね」
「いいじゃないか。『友達の友達は友達』っていうし!」
「とりあえず近づいたら撃ち抜きますよ?」
「・・・・・・この銃刀法違反め」
「廃刀令も出てないご時世にナンセンスな」
気軽にぶっ放すことはしなくなったけど、やはり捨てないこの凶器。
・・・多少、感傷的な理由もあるけれど。
「お前さー、結局どう思ってたんだよあいつのこと」
「・・・今さら聞きますかそれを」
日本語は都合がいい。
――「嫌い」じゃありませんでしたよ?
声も顔も定かではなくなった少女へ向けた言葉は、
その場に漂うだけで、やがて静かに消えた。