暗闇に渦巻きが見える。
彼女がこちらを見ているのだ。
あの人の側でぼんやりとしていると、その時々の記憶がふっと目の前に現れることがある。
足もとに寄り添う黒猫の九朗。
シルビノとの会話になっていない会話。
いらついた表情の右甫。
朝話しかけてきた荒木狐タ郎。
机の上で寝ている鈴原みぃ子。
キツネ姿の宅間裕一。
美術室のすみにいる鎌場梅花。
なんでもない日常だったり、誰かを傷つけた事件だったり。
でも大丈夫。
僕が願えば、みんな閉じ込めてくれるから。
辛い記憶も、苦しみの原因も、すべて残らず闇の中へ。
「・・・・・・福田さん」
ふと気がつくと目の前に、彼女がいた。
ああ、そういえば。
今日の部活の帰り、偶然一緒になったからだ。
「どこか調子悪いの?」
西の空が真っ赤だったから、次の絵には暖色を使ってみようか。
そんなことをぼぅっと考えて、反応が遅れただけなのだけれど。
「大丈夫?」
心配そうに声をかけてくれた。
なんでもない、と言うと、そっか、と笑った。
「じゃあまた明日」
手を振って歩いて行く。
あのとき、赤い夕陽をはじいた髪が、キャラメルみたいな甘い色をしていて、綺麗だなぁと思った。
「…福田さん」
「?」
渦巻く暗闇の中、一人夕陽色した彼女を 呼びとめてみる。
「……福田さん」
「なあに?」
名を呼べば、答えてくれる。
手を伸ばしても、逃げない。
そのまま髪に触れそうになって、はっと我に返る。
「……ごめん」
「どうかしたの?」
伸ばした手を、そっと握り返してくれる。
「左甫くん」と名前を呼んでくれる。
笑顔を向けてくれる。
――忘れるな。
――これは、自分の記憶が作り出した、ただの幻。
彼女は優しい。
でもそれは、何も知らないから。
彼女は優しい。
でもそれは、都合のいいニセモノだから。
もし福田さんが本当のことを知ったら、自分のことを憎むに決まっている。
もし福田さんがホンモノならば、こんなに近くで触れたりできない。
それは当たり前過ぎるくらい当たり前のこと。
「ごめん・・・・・・」
「いいよ」
それでも優しく微笑むのは、ああ、幻だからだ。
暑いのも、寒いのも、痛いのも――苦しいモノは全部閉じ込めてしまったはずのに、彼女の幻は目にしみるほど暖かくて、胸の奥がちりりと痛んだ。
駄目だ。
こんなもの、あっちゃいけない。
こんなニセモノ、存在しちゃいけない。
こんな感情――全て、全て閉じ込めなくては。
『本物』の彼女を思うたび、早く捨てなくちゃいけないと思うのに。
――・・・コレ、トジコメル?
あの人が、言う。
「もう少し・・・待って」
もう少し。
もう少しだけ。
幻でも、暖かい。
こんな夕陽の色した彼女。
暗闇に押し込むなんてできない。
許されるはずがない。
「全て終わったら、僕が消えればいい」
次第に色を失う黄昏時に、溶けてしまうのは自分だけでいい。
あの時僕が奪った未来を、きっと返してみせるから。
この身体も、この感情も、僕が全て闇の底へと持っていくから。
君だけは必ず、陽の当たる暖かい場所へと、帰してあげるから。
明日なんて来なくていい。
朝日なんてもう望まない。
だからせめて、
今日の夕陽はこのカンバスに、ま白な世界に閉じ込めさせて。
鳥居のとこであまりにもナチュラルにフネに手を伸ばした積極的な弟くんに驚いた勢い。
「本物の…?」って我に返り方は「本物じゃない」ものが以前あったからではなかろうかとか。
(まあ、意識がはっきりしてなかったからつい、というのもあるだろうけどそれはそれで潜在意識ではフネに触れたいと認めたことn(略)
「閉じ込めたものは絶対出てこないはず…」とか言ってるし。
(自分は閉じ込められたから外界に出るはずがないという意味とも取れるけど、ぐるぐるはばっちり見えてるからむしろ自分が閉じ込めた「フネに付随する何か」が出てきたと思ったんじゃないかとか妄想してみる)
閉じ込めたものが「暑いとか、寒いとか、痛いとか、………………」
(その後ろの間はなんだぁぁ!つーかもうそこは記憶や芽生えだした恋愛k略)
…一人で何か楽しそうです。